文学の新刊本を出しました。
『日本文学にみる純愛百選ーzero degree of 110 love sentences』という本を出しました。芳川泰久さん監著、執筆者多数でなかなか多様な「純愛」へのアプローチが愉しめる一冊だと思います。値段もお手頃では?*1
日本文学にみる純愛百選 zero degree of 110 love sentence
- 作者: 芳川泰久,江南亜美子,荻野哲矢,駿河昌樹,高頭麻子,十重田裕一,三ッ堀広一郎,望月旬,山崎敦,和久田頼男
- 出版社/メーカー: 早美出版社
- 発売日: 2018/01/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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図書館所蔵本として大変向いているのでは。扱った作品の引用はできるだけ、新刊書店で購えるもの、とくに文庫から採録しました。大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』(講談社文芸文庫)や耕治人『そうかもしれない』(晶文社)、重松清『愛妻日記』、綿矢りさ『蹴りたい背中』の最新版には残念ながら間に合わなかったのだが。唐十郎『謎の引越少女』、矢川澄子『兎とよばれた女』などはもとより絶版本からの採録なので図書館等で底本にあたってもらうよりほかないのだけれど、講談社文芸文庫、新潮文庫の典拠が割合多いです。
扱った作品の引用箇所に、エッセイという見開き4頁が基本構成。作家のイラストと平仮名のインデックス(あいうえお順)を付し、巻末に収録作品の一覧を載せてあります。内容紹介、ほんの一例をちょびっとだけ望月旬氏の執筆から。
金がない、仕事もない、うるおいすらない?無為の日々から一発逆転する秘策は、子供相手のメルヘン執筆だった! 人生の茶柱を立てるべく悪戦苦闘する〈わたし〉とその妻の物語。日本文藝最強の堕天使による、パンクな人情小説。
まったくもって、偉人のぼけはなにをさらすのであろうか。ひとの夢をこわしやがって。勝手なことをするな。って、考えれば考えるほどむかむかするが、いつまで怒っていても状況は好転しない。つまり、この高度資本主義社会の中で、自分の立てた方策はあまりに素朴すぎた、ということなのだ。それにつけても、金、金、金。金がない、ってのは本当に情けねぇことだ。愛する妻と口を利くこともできぬ。ああ、夢がこわれました。相変わらず陽がたけぇなあ、これで夕方になったら、もっと心が寒くなるんだな。くわっぱ。
[『夫婦茶碗』新潮文庫・二〇頁]伴侶との、うるおいのある純愛
日本文学が誇る“パンク侍”と申せば、町田康である。高校時代から音楽活動を始め、INUという名のロックバンドを結成して、『メシ喰うな!』でデビュー。その後パンクミュージシャン・町田町蔵として疾駆していたかと思いきや、一九九六年に、『くっすん大黒』で小説家・町田康としてリスタート。いわゆるバブル崩壊後の一九九〇年初頭を背負い投げるがごとく、「プロレタリア文学の金字塔」をみごと打ち立てたわけである。……
小説だけではなく、詩作品からも「純愛」を扱っています。駿河昌樹氏執筆からほんの一例。
生まれる以前からの深い絆で結ばれた男と女。詩集『女に』では、このふたりの生涯の関わりを、男性側の視点で追い続けていく。最短七行の短い詩と、佐野洋子によるペン画との見開き構成。
私が迷子になったらあなたが手をひいてくれる
あなたが迷子になったら私も地図を捨てる
私が気取ったらあなたが笑いとばしてくれる
あなたが老眼鏡を忘れたら私のを貸してあげる
そして私は目をつむり頭をあなたの膝にあずける
[「迷子」『女に』所収、マガジンハウス・四四頁]
ここがどこかになっていく
詩集『女に』では、男女がなんらかの曖昧さの共有へと到る場合がなんども描かれていて、それがいわば、至上の愛として考えられている。
引用した『迷子』の二行目、「あなたが迷子になったら私も地図を捨てる」などは、もっとも顕著な例だろう。あなたが迷子になったら私が導いてあげる、となら、だれでも言える。だが、自分の地図を捨てていっしょに迷子になる、とまでは、なかなか言えないことだ。相手の状態に入っていき、それをともに生きようというわけで、このためには、いわゆる処世上の成功も便利さも、自分に備わっている知や能力も犠牲にする。一般に「純愛」という言葉で想像されがちな様々な定義や振る舞いを、たった一行で、谷川俊太郎は軽々と超えてしまっているのだ。……
こんな具合に、真っ平らな愛の零度地点から(?)、色恋や愛を扱っています。
収録作品は長々となりますが、以下の作品群です。
【あ行】
【か行】
【さ行】
【た行】
【な行】
【は行】
【ま行】
【や行】
【わ行】
*1:本体価格1.800円+税です。価格設定誤ったかも。