鉄道音、「楽」から「学」へ

urotanken2007-09-04




昨日の東京新聞夕刊の音楽芸能欄に、「杉ちゃん&鉄平」なるコンビによる、《クラシック・鉄道オタク融合》という見出しで、記事がでかでかと載っていた。「音楽つれづれ」の五輪真弓はさておき、それも、スティーリー・ダン来日公演を退けてまで!
〈冗談音楽デュオ〉と称すだけあって、アニメや刑事物の音楽とクラシックの融合などを試みていたこの連中は、二人の共通の趣味である鉄道にまで手を出して、「電クラ〜珠玉のレイルロード・コンチェルト」というアルバムをリリースしていた。これがいま大変人気を博しているらしい。

電クラ

電クラ



このところ鉄道ファンの輩が世にはびこっていて、はびこるだけなら何時の世も同じだろうが、「杉ちゃん…」のようにある種の脚光まであびるというのは、「オタク」が人気になるという今日的現象なのだろうか。火付け役には「タモリ倶楽部」という小さな深夜番組が一役買っているのかも知れない*1Train Simulatorを自分で開発してしまったフュージョンバンド「Casiopea」のキーボード向谷実*2



ホリプロ鉄道(?)アイドル・豊岡真澄*3のマネージャーとして暗躍する超鉄道オタクの南田裕介、俳優の原田義雄、京浜急行の宣伝ソングにもなった「赤い電車」という楽曲を作っているくるり岸田繁RAG FAIR土屋礼央等々*4

赤い電車

赤い電車

*5

ざっと見渡しても洗練された鉄ちゃんが勢揃い、それを好ましく思い認める一般の人々が出てきたということに違いない。若手芸人にも、鉄ちゃんはわんさかいるが*6、とりわけミュージシャンの鉄ちゃんが多いのが面白い。「乗り鉄」「撮り鉄」「音鉄」といった趣味趣向のなかで、「乗り鉄」であることは当たり前として、ミュージシャンだけに「音鉄」というのはきわめてマニアックな領域にみえる。だが、わざわざ音を聴くことに集中するやつは少なくても、利用客なら誰でも「聞こえている」電車の音というものがある。列車の違いで音がどう違うといった微妙で繊細な話だけではなく、そろそろなぜ自分たちは電車や電車音に魅せられるのかという問題に一歩進んで欲しいものと思う。専門分野を大衆に拡げていく鉄ちゃんの存在を、「オタク」と十把一絡げにせず、個別の研究対象とする社会学もあっていい(もうあるのかも知れない)。ただ、研究者自身一種の鉄道オタクであることが望ましい。つまり灯台もと暗しであることに早く気づいて欲しいのだ。
既に流通している列車の機械音発車ベルのチャイムであったりを真似るというのは、鉄道音楽であるかも知れないけれど、何かが足らない。向谷のように、鉄道風景に音楽を寄り添わせるという鉄道「音」風景は面白い響き合いをリスナーに感じさせると思う。しかし、もっと根本的な問い、間身体的な現象として走っている列車の音がなぜ心地よいのかを追究し得る者がいない。もっと普遍的な問題にまで掘り下げてくれる人がいない。いるとすれば恐らくH氏ぐらいではないか。それについてはまた後日書く予定。

*1:2週にわたった企画「赤い電車久里浜工場へ」

*2:名古屋芸術大学音楽学部音楽文化応用学科専任教授でもあるらしい。

*3:豊岡真澄と原田義雄は、アニメ化された「鉄子の旅」の声優もつとめる。「鉄子の旅」のモデルとなったトラベルライター横見浩彦タモリ倶楽部に出演していた。タモリ電車倶楽部の鉄道文化推進力、恐るべしである。

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*4:彼らはタモリ電車倶楽部ゴールド会員である。

*5:それより前に着手していたのがほかならぬキリンジの「水とテクノクラート」で、赤い京急に乗って 三崎へ♪ という素敵な音楽を作っていたのだが、採用ならず残念!

冬のオルカ

冬のオルカ

*6:タモリ電車倶楽部シルバー会員である芦沢教授ダーリンハニー吉川正洋ななめ45°岡安章介など