古川日出男がNight

urotanken2007-12-27












古川日出男の新刊記念イヴェントが終わった。12月中に4回も書店を回って宣伝していた訳だが、ぼくはそのうち2回も行ってしまった。
はじめに足を運んだのは、〈Night 夜 @青山ブックセンター六本木店〉。写真を後ほどアップするが、abcの店員さんがご丁寧に古川作品の小説の言葉を切り貼りしたボードが二枚、壁にかけられていた。


聴衆側からみて右が左が『ハル、ハル、ハル』からの、左が右が『ゴッドスター』からの引用だったか。


テーブルには『ゴッドスター』のほか、「新潮」2008年1月号も掲げられていた。新潮」には特別付録(?)として、古川日出男が日本の近現代詩人の作品から抜粋、朗読したCDがついていて、これがなかなか聴かせてくれる。

新潮 2008年 01月号 [雑誌]

新潮 2008年 01月号 [雑誌]



古川日出男はまず、『ゴッドスター』の朗読から始めた。



*1

 ふたつが重なる。
 あたしはゆれる。ゆさぶられる。
 壁にある絵だけれどもポスターじゃないもの。つまり壁画。ペンキかなにかをつかったしろもの総天然色の。富士山。
 巨大な富士山の絵。
 みちている特殊なあかり。
 この倉庫ってゆうか倉庫跡ぜんたいに。
 ひと。
 ひと。ひと。
 ひと。
 いろいろな区画に。食堂以外のところに。ゴーストたちだね。二十人はこえたね。
 扇風機のある天井。
 換気扇のある壁のすみっこ。
 それよりも。あそこの区画の天井。雨が降っているような線がある。無数に。なに? わかった。風鈴だ。つりさげられてる。ばらばらばらって。七十個はある。
 数だ。あたしは一瞬にして把握して。
 風鈴はゆれる。
 どこかの区画にある扇風機にゆさぶられる。いわば動揺する。七十個はある風鈴が。そうすると音楽が鳴って。
*2


ゴッドスター

ゴッドスター





途中、abc店員のおばさん(失敬)と古川日出男がしばしやりとりをした後だったかと思うが、

クリスマス前ということでとっておきの(?)『ボディ・アンド・ソウル』の一節を読んでくれた。

*3

…父母のために、子のために、上司のために、部下のために、先輩のために、エトセトラ」と応える。
 自分のために物を買いこむより、全然いいじゃない?
 しかも景気が上むきになって、経済効果が最大で、とどのつまり国家まで愛しちゃったりして。
 浪費が国民(みんな)のためになるなんて、クリスマス教ってなんてすごいんだろう。
 そこまで考えて、クリスマス教こそが現代日本の国教である、と理解する。もう国家神道の時代ではないのだ。たぶんここにはGHQの戦略、および戦後のアメリカ崇拝のいっさいが背景として融けている。日本は政教分離を掲げるGHQの方針に則り、欧米の宗教と解釈しているキリスト教を独自に(五十年超の歳月をかけて)アレンジして、愛の国教=クリスマス教を発明したのだ。だって、お正月の初詣での夜に、別に恋人たちは儀礼のセックスをしないでしょ? 神道のイベントだけど。もちろん葬儀の夜にしませんよね? 仏教のイベントだけど。クリスマス教のイベントだけが、それを、愛の証しとしてのセックスを、なかば義務化して許容しているのである。
 僕は十一月の後半…
*4

ボディ・アンド・ソウル

ボディ・アンド・ソウル



その後、ぼくら聴衆の質疑応答で、質問してくれた人に、古川が新年早々参加する音楽イヴェエントの招待券をくれるというサービスあり。4、5人ばかり質問したがぼくも、『LOVE』という地図的な作品をどのように構想したのか、という質問をぶつけてみた。すると、古川日出男は、昔のことで書いていたときのことを思い出せないけれど、地図を作ることは意識していた。ロックンロールでは*5、あるところにあるひとがいた、ということをやる(歌う/書く)ことは出来るのだけれど、小説でもそれをやりたかったと語ってくれた。
LOVE



質疑応答が終わった後はサイン会、その場で買ったのは「新潮」だけだったのだが、整理券を貰い、図々しくも「新潮」と持ち合わせていた『ゴッドスター』にもサインしてもらった。そう、『ゴッドスター』は丸善で購ったものだった。親切にも、他店のイヴェントに来てくれた人には、別の言葉を書きますから、と古川日出男は親切に言っていた。*6


自作朗読もそうだが、行ってよかったなあと思ったのが、〈Voice 声 @丸善丸の内本店〉
abcは全部で45分くらいだったのに対して、こちらは90分である。会場がセミナールームみたいで少し窮屈な心地だったが、古川日出男は入ってくるなり、格闘にのぞむようなすごい気迫で入ってきた。長いテーブルに、付箋をたくさんつけた詩集を置いて、大きな丸時計を持ってきて時間を視認し、古川日出男はマイクに向かって、

90分、一本勝負。

とひと言いうと、『ゴッドスター』を立ちながらところどころ読み、テーブルに座っては詩人の詩句を叫ぶように朗読し続けた*7。途中、水や喉スプレーをしたりしながら。鬼面と形容するのがふさわしいものすごい形相ぶりで、彼自身が詩人になりきるかのようであった。〈声〉というイヴェントだが、古川日出男が身体を振り絞って出すその仕方にも、目を向けざるを得ない驚きがあった。言葉通り、古川日出男というイヴェントがここにある、と始終感じていた。古川日出男というロックがびんびんにこちらに響いてきた。ああこういうのがロックなのだな。


〈Book 本 @リブロ渋谷店〉には残念ながら行けず、〈G・O・D 神 @三省堂書店神保町本店〉は、二冊買うのはさすがになあと諦めたのだが、友人が行っていて、特別カバーをやはり図々しくも頂戴する次第となった。カバーもまたアップします。*8

*1:性能のよくないデジカメで撮ったものです。

*2:103-4頁。大字は傍点がわりに使用。

*3:性能のよくないデジカメで撮ったものです。

*4:19-20頁。大字は傍点のかわり、赤字はルビをさす。

*5:ロックンロール七部作いわゆる音楽のロックのことでもあり、自著『ロックンロール七部作』も指しているものと思われた。

*6:後日、丸善丸の内店のサイン会にて、名前にちなんだ贈る言葉を即興で書いていただきました。

*7:どんな順序で進めていったかは、また補足する予定。

*8:それぞれ表紙と、特別ジャケット。特別ジャケットの裏には本文から削除された一文「つらい。」が記されてありました。