「壁の本」〜街のテクスチャアを集めた壁写真

urotanken2009-10-03




壁の本

壁の本

壁の肌理に注ぐもの

街中に絵があふれている。

帯文にそう謳われるとおり、壁写真の画集というべき本。写真のキャプションはそれぞれ、壁の撮影された街名になっている。

著者の言う壁とは、「地球に対して垂直な平面」のこと。
都市のさまざまな垂直平面を踏査して、肉眼でそれを確かめ、テクスチャアに触れて、レンズを近づける。眺めては凝視し、覗う。
都会ならではの時間変遷のなか、剥き出しになっていく壁の破綻のあらわれを、珍奇なものとして蒐めて巡るという点では、路上観察学会の精神と何ら変わりないように見える。しかし、壁の痕跡の肌理を、アートとして取り扱うような蛮行の意志は見られない。むしろ、「摩滅の賦」四方田犬彦*1といった滅び朽ちゆくものの、刹那の美を捉えるという感覚に近い。

壁というものが、幾重もの平面の折り畳まれた人工かつ自然の歴史の一部であるということ。先代の平面を覆い隠す当代の平面もまたみずから後代に隠されていくか、そのまま剥き出しのまま綻んで朽ちていく。そうした平面の多層な自然を、単層のテクスチャアとして扱う態度は、おそらく画家にはないものだ。
一枚の写真に収めるという、写真家の歴史を記録したいという意識のほうが勝っているようだ。

*1:

摩滅の賦

摩滅の賦